(初回投稿)2019.9.29
更新:誘導馬とのふれあい体験再開。
競馬場に必ずあるのが出走前の馬が周回する「パドック」(下見所)。高知競馬場のパドックは入場門を入ってまっすぐ進むとすぐに見え、本馬場から見るとゴール前寄りでスタンドを挟んですぐのところにあります。
概要
出走馬は画像左側の装鞍所から続く砂道から入り、右の砂道から本馬場へ進む形となります。パドックは掘り下げられた構造で周囲も階段状になっており、柵も低いことから馬をかなり間近に見ることができます。
装鞍所で準備が整ったら木に囲まれた砂道を通って出走馬はパドックへ。なお、騎乗騎手も検量所からこのあたりまでマイクロバスで乗りつけ、騎手の待機所に入ります。(この画像は2014年11月3日に開催された「高知けいばファン感謝デー」で行われた「高知競馬場バックヤードツアー」にて撮影。)
パドックの中からの風景はこんな感じ(前述の「バックヤードツアー」で撮影)。通路は舗装されており、楕円形。周回は一般的な左回りで行われます。
山を切り開いて作られた競馬場ということもあって周囲には緑の多い高知競馬場ですが、パドックも同様に森のような背景。そして、パドック中央の緑地帯には競馬場オープン時からあるシンボルのような大きなオウゴンヒバが1本植えられています。
出走馬は発走の25分くらい前にパドックに入り周回を開始。15分前くらいで停止命令がかかったのち、騎手待機所にいた騎手が外に出てきて、号令にあわせて一礼の後騎乗(高知けいばは本馬場入場後に行われる表彰式等のセレモニーへの出席がない限り、騎乗騎手は必ずパドックに整列します)。先出しになる馬以外は基本的に2周して本馬場に入る形になるため、10分前くらいで馬が全て退場。馬が落としたボロなどを係の皆さんが掃除した後、時間が来れば次の競走の馬がまた入場する、というルーティンになります。
観覧ポイント
ネットによる場外販売が大半を占めるようになったとはいえ、年末年始の開催や大きな重賞となると多くのファンがパドックで馬を眺めたり写真を撮ったりという風景が見られます。
さて、高知競馬場ではパドックの石段に座って見る慣習があります。旧桟橋競馬場のパドックは特に段差の付いていないパドックだったようなので、現競馬場に移ってから生まれた慣習と思われますが、座った方が見上げず見下ろさずのちょうどいい目線になるので、思い思いの場所で皆さん座って馬を見ています。一方で、もちろん石段の周囲で立って見ている人もいます。
普段の開催において、パドックを見る人はだいたいスタンド寄りに集まる傾向。日のある時間帯はどちらでも良い(むしろ写真撮影は光線的にこの画像からの向きの方が順光)なのですが、向正面側はナイター時間帯になると画像のようにスタンド側から強く発せられるナイター照明の影になりやや見えにくくなるような感があります(向正面に照明はほとんどありません)。また、レース中継のパドックの際、スタンド側に比べると圧倒的に向正面側の方が映るので、気になる方はご注意を。
一方、雨の場合。パドック周囲に屋根はないため、傘か合羽かスタンドまで後退するかということになります。
ただ、スタンドからせり出した形で階段があり、この踊り場の壁も大人が乗り越えられない程度の高さになっていることから、雨が吹きこまない限りスタンドより少し前の位置で眺めることも十分可能です(雨でなくてもここから見ているファンの方もいます)。
観客の多い大晦日のパドック。雨は降ってないですが、スタンドの階段踊り場に陣取って馬を見ている人もちらほら。
おそらく踊り場の3階あたりからコンデジで撮った画。見下ろす形ですが望遠を使えばそれなりに馬のアップも撮れます。
また、2021年7月7日にリニューアルオープンしたスタンド3階の発売所からも窓際のカウンターから見下ろす形でパドックを見ることができるようになり、空調の効いたフロアからでもパドックを歩く馬を見ることができるようになりました。
退避スペース?
こちら、パドックの隅に設けられている屋根の付いたスペース。高知競馬場ではいわゆる「うるさい」馬はパドックの周回に入らずに1頭だけ騎手が騎乗するまでこのスペースに入っておくことができます。また、最初は周回に加わっていても途中で気難しさを出してきた場合、このスペースに退避させて落ち着かせる際にも使われます。
他場にこのような場所はない(その代わりパドックから出したり、装鞍所に戻したり等で周回から外す)のですが、高知では出走のたびにここに直行する常連さんも多く、ごくありふれた風景です。ただ、1頭分のスペースしかないため先着順という感はあり、2枚目の画像のように入りたいけど入れなかった馬は入り口でじっとしていたり、出口のあたりで回っているケースもあります。
余談ですが、高知競馬はパドックの周回に関しては馬の気性に合わせて柔軟なところがあり、退避スペースにすら入れないくらい気性が荒い馬は周回を免除したり(その場合はパドック解説で「いつものように周回はしていないんですが…」と言われたりする)、他の馬が周回を終えて本馬場へ向かった後に1頭だけ残ってもう1周することもあります。
周回免除の例。2017~2018年在籍のバイザスコット号はパドックに入るだけでうるさくなるためか、ほぼいつも入口で待機して全馬退場してから騎手を乗せて周回なく直行という稀な馬でした。暗い中たたずむ姿が荒馬感を余計際立たせていました。
パドック居残りの例。2017~2019年在籍のマッセ号。気性の問題を考慮して1頭だけ居残りさせて余分にパドックを回して落ち着かせる形を取ったところ、1頭だけになった途端に気分良く周回する姿が愛らしいと当時ファンの間で話題になった馬でした。
遊園緑地
パドック向正面の手前側には「遊園緑地」と称される小さな緑地帯が設けられており、遊具もいくつか置かれています。入口そばに目立つ「ちびっこランド」があるので、こちらはひっそりとしている印象。そばにはトイレも設置されています。
馬頭観音
パドックの向こう正面の奥にはお堂があり、馬頭観音が祭られています。
緑に囲まれた一角。他場でよく見られる鳥居はないですが、パドックを回る馬たちを見守っているかのようによく目立つ位置にあります。時折ファンの方などが訪れて参拝している姿を見ることも。このお堂は宮大工をされていた佐原秀泰騎手のお父さんが手掛けたものというのはちょっとした豆知識であります。
(参考→「馬頭観音の秘密」(高知競馬旧公式サイトブログ「井上オークスSP」))
馬頭観音のお堂の横にあるのは「マンペイ記念碑」。マンペイは戦後の高知県の軽種馬生産に多大な貢献をしたアングロアラブの種牡馬で、その功績を称えて建立されたもの。碑に刻まれた日付は昭和39年と非常に古いことから移設されて設置されたものかなと思われます。1997~2004年にアラ系3(当初4)歳重賞として行われた「マンペイ記念」の由来もこの種牡馬です。
騎手待機所
パドックの一番奥にあるのが騎手の待機所。マイクロバスに乗って待機所に着いた騎手は一旦この建物の1階で待機。その後整列して一礼後、騎乗します。一方、2階部分は出走馬の掲示板。開場当初からずっと黒板にチョークの手書きとマグネットによる手作業で掲示されていましたが、2014年4月に大型ビジョンを設置し、現在は映像で表示されています(出走馬掲示板は別記事で取り上げます(予定))。
2019年度最初の開催の第1競走前。倉兼騎手会長(当時)がまるで訓示しているかのよう?
夏のパドック~酷暑対策~
真夏の猛暑の度合いが強烈になっている昨今、南国と呼ばれる高知も半端な暑さではありません。馬は暑さに強くないだけに、安全な競走を行うためにも、対策として各地でミストやシャワーなどの設置が進んでおり、高知競馬場でも暑さが厳しくなるとパドックに設置された噴霧装置から冷たいミスト(霧)を送ってパドックの人馬の暑さを和らげる取り組みが行われるようになりました。
初めて付けられた2019年は扇風機から霧を出すようなミストの噴霧装置をスタンド側に設置。
2020年はパドックの石段沿いフェンス全周にホース状のミスト噴霧装置を付けていましたが、高知の暑さによりしっかり対処していくためか、2021年から大きなファンを用いた噴霧装置がパドックの全周に設置され、ここからパドックに向けてミストを噴霧する形になりました。その威力たるや…
ご覧のような半端ない威力でミストを爆吹きします。この装置が石段のあちこちに設置されているため、2021年夏場の高知競馬場のパドックは、少し日が陰るとあちこちから強力に噴霧されるミストにより、パドックの中継映像に「もや」がかかったように映るほどでした。
2021年10月、この時期でもまだ暑くミスト噴霧中。日の照っている時間帯に順光で撮影したものですが、それでもうっすら白っぽいのはミストのせい。
一方で、パドックのナイター照明が点灯されると、ミストとナイター照明の光が組み合わされ、人馬の姿が少し幻想的に見えたりもします。あまり遅い時間になると暑さも一息ついてミストも止まるため、うまくタイミングが合えばこんな風景に出会えることも。
なお、薄手の服装で真夏の直射日光が照りつけている時間帯の石段で座って周回を見ていると、座っている部分がジリジリと焼けてきますので各自でお気をつけください(割と本気で)。
新型コロナウイルス対策
2020年に新型コロナウイルスが世界的に流行。競馬界も全競馬場が一時無観客開催を余儀なくされ、影響はなお続いています。観客入場が再開された後も高知競馬場は地方競馬全国協会が作成した「競馬における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」に基づき、来場者同士の距離を保つよう呼びかけていました。
座って観戦するスタイルが定着している高知競馬場のパドックゆえ、密集にならないよう2020年9月12日に最初の無観客開催が明けた当初は地面に観戦場所の目印となるマーカーが付けられていましたが、10月17日の開催からは石段に整然とカラーコーンが300個ほど並べられ、これにより区画割りのような形がされて間隔を保つようになっていました。当初は異様な雰囲気がありましたが、時間と共に見慣れた光景になってしまっていたものです。
この取り組みは新型コロナウイルスの5類移行を受けて2023年5月7日の開催をもって終了となり、現在はカラーコーンのないパドックに戻っています。
誘導馬とのふれあい体験
高知けいばでは、誘導馬による先導はパドックを出たところから行われるため、レースの際に誘導馬はパドックには入りませんが、「誘導馬とのふれあいタイム」として、天候の良い開催日の第1競走の誘導が終わった後に誘導馬がパドックに登場します。
石段とパドックの境が2段階の柵になっているため、外側の低い柵をまたげば用意されたニンジンをあげたり、誘導馬と触れ合うことができます。
こちらも参照→「高知競馬場の誘導馬ーふれあいタイム」
馬の引退式
高知けいばで顕著な活躍を見せた馬の引退に際して引退式が行われることがあります。かつては本馬場で行われたものもありますが、2014年のアドマイヤインディ号とタンゴノセック号、2015年のグランシュヴァリエ号、2018年のマウンテンダイヤ号、2019年のディアマルコ号、2021年のサクラシャイニー号がパドックで引退式を行っています。
レースはおよそ2分弱ですが、パドックはその何倍以上も馬を見ることができます。ネット中継でも長く映るパドックはしばしばアクシデントや珍風景が映ることもあり、そこから不思議な親近感が沸くケースも。また、本場だと中継で映らない表情やしぐさを見ることができます。馬の調子を見る、馬の可愛さ、かっこよさに癒される、騎手の顔を見る。いろんな楽しみ方のできるパドックという形はどこも同じでも、他所とは少し違う部分もある高知競馬場のパドックでした。