(2024年 馬場状態 10/5まで) [良]18 [稍重→良]1 [良→稍重]1 [良→稍重→重]1 [稍重]14 [重]16 [不良→重]1 [重→不良]2 [不良]29
レースライナー

【Last 2 Days...】倉兼育康騎手

2023年8月1日付で調教師免許を取得するため、7月30日の騎乗を最後に騎手を引退することとなった倉兼育康騎手。騎手としての最終週となった29、30日の姿を画像を交えて振り返る。

能力検査

高知けいばでは開催前に能力検査が行われる。29日の能力検査2R(2歳・800m)には最後の福山ダービー馬カイロスを父に持ち、母は高知デビューからNAR最優秀4歳以上牝馬に輝いたディアマルコという血統ロマンにあふれた牡馬マルロス(那俄性哲也厩舎)が受検、その鞍上に倉兼騎手が起用された。

チークピーシズやマルタンガールといった馬具をがっちり装備したマルロス。本馬場に入るや何度かいななく場面もあり、幼さが垣間見える部分も。気性面の課題で時間がかかっていると公に語られていたのを裏付けるようでもあった。

倉兼騎手はレースだけでなく調教に関しても頼られており、調整が難しく手こづる馬には、倉兼騎手に調教から助けてもらったというエピソードもよく聞かれた。マルロスへの実戦騎乗は物理的に不可能でも依頼されているあたり、現役最後までその手腕には期待されていたことを示す起用にみえた。

能力検査は道中ほぼ持ったままだった宮川 実騎手騎乗のプリフロオールイン(打越勇児厩舎)が1着。

マルロスは3着入線も基準タイムをクリアし合格となった。

能力検査終了後には再度ゴール前まで戻ってから引き上げる。倉兼騎手が能力検査に乗った際は、この際によく他の騎手に砕けた感じで声をかけていた印象があり、この日も同様。何気ない日常の風景もこれで最後と思うと、少し寂しさも感じた。

最後のベストコンビ ~29日

29日の騎乗は4鞍。その初戦がこの2日間で最も注目される騎乗であった。

第4競走の準重賞「高知・佐賀スタリオンシリーズ サトノアラジン賞」(3歳以上・1800m)。騎乗するのは高知在籍中全てで手綱を取り高知記録の重賞12勝を挙げたスペルマロン(別府真司厩舎)。先々週の重賞(6着)を使ったばかりではあるが、近走は中1週出走ができており、現役最終週でのコンビが実現した。

パドック周回
本馬場入場

スペルマロンが高知にやってきておよそ3年半余り。無双した時期も模索が続いた時期もいつも鞍上は倉兼騎手。きりっとした表情を持つ人馬ゆえ、とても写真映えした組み合わせもこれが最後。

スペルマロンは単勝4番人気の支持を集め、レースを迎えた。

ゲートが開くとスペルマロンが勢いよく飛び出すがさすがに控え、大方の予想通り村上弘樹騎手騎乗の4歳馬ロイズピーク(工藤真司厩舎)が後続を離し気味に逃げてレースを主導。1番人気の赤岡修次騎手のアポロテネシー(田中 守厩舎)が2番手につけ、スペルマロンはそれをマークする形で進める。

砂煙舞う最後の直線

先頭を守るロイズピークに対し、追い上げるアポロテネシーの手応えが4コーナー前で怪しくなる。スペルマロンは畑中信司騎手が騎乗する同厩のダノンロイヤルの上昇に連れて直線入口で2番手グループに浮上。

直線半ばでロイズピークを捉えると、外を伸びるダノンロイヤルを抑えての勝利。倉兼騎手との最後のコンビを見事に締めくくった。これで地方競馬通算2112勝目。

レースを終えて検量へ引き上げる倉兼騎手とスペルマロン。倉兼騎手の表情は緩み、声がかかると手を挙げて応える姿も見られた。

表彰式の優勝騎手インタビューでは、前日に担当厩務員から馬の調子がいいと伝えられていて、自信を持って乗れた上に、最後の直線で一生懸命走っての勝利してくれたことに感謝しかないと満足感をにじませる倉兼騎手であった。

表彰式でインタビューに応える倉兼騎手
ナナコロビヤオキ(入線後)
ナムラゴロフキン(本馬場入場)
ヒカリオーソ(本馬場入場)

この日のこの後の騎乗馬は、倉兼騎手にとって最後の重賞制覇となった昨年の「第11回土佐秋月賞」勝ち馬ナナコロビヤオキ、今年の「第39回二十四万石賞」で僅差の2着がある反面、強烈な気性難でも知られたナムラゴロフキン、体調不安を抱えながらも下級転入から倉兼騎手とのコンビでは9勝をマークした南関東の実績馬ヒカリオーソ。勝利には至らなかったが、直近の倉兼騎手の活躍ぶりを思い返す豪華な顔ぶれであった。

ファイナルまで ~30日

30日も前日に続いて真夏の日差しが照り付ける一日。引退式も行われるこの日、11レース中実に9レースが倉兼騎手にちなんだ関係者からの個人協賛競走。残る2レースは協賛ができない特別競走と「一発逆転ファイナルレース」であり、まさに倉兼騎手引退一色ともいえる開催となった。

2Rアルベロ
3Rペイシャコリン
5Rネオボーゲン
8Rトミケンボハテル

この日の騎乗は5鞍で、うち4鞍は引退式前。3歳の800m戦やC3級下1400m戦の下級条件のレースで明確な力上位の馬もいたこともあり、勝ち星は挙げられず。

レースの勝ち馬は基本1頭。残りは全て敗者。どんなリーディングジョッキーでも10回に6~7回は敗者となる計算がたつ、喜怒哀楽の怒と哀が圧倒的に多い世界。敗れたレースを終え、表情を変えず黙々と戻っていく姿を見ると、年数や勝利の影には、その数を上回る喜びや楽しみでない積み重ねがあることをふと気づかされた。

5R。JRA重賞勝ち馬サトノフェイバー(打越勇児厩舎)が1年の休養明けから圧勝したレースであるが、倉兼騎手騎乗のネオボーゲン(那俄性哲也厩舎)は前半を控え気味に進めて後半に内をジワジワ上昇。能力上位馬のペースに一杯になった先行勢を掬う形で追い込んでの3着はさすが「追い込みのイク」であった。

9R確定後に引退式が行われた。

引退式開始前。雲間から月が顔を見せる。この後、前のレースを終えた騎手も駆け付けた

まず大勢の関係者やご家族から花束が贈られ、その後には中学時代の恩師からのお手紙が読み上げられた。

別府真司調教師。目を引く大きな胡蝶蘭。
所属厩舎代表で大澤誠志郎騎手
宮川真衣調教師。傍には宮川 実騎手も。

騎手代表で花束を贈呈した上田将司騎手。20代の頃はほとんど毎日行動を共にしていたといい「良いことも、悪いことも、悪いことも悪いこともいっぱい教えてもらいました」と少し場を和ませたシーンも。

後ろには騎手を続けることを思い直すきっかけとなったフリビオンを手掛けた中西達也調教師(調騎会副会長)も。この勝利が中西厩舎の初出走・初勝利・初重賞制覇でもあった。

倉兼騎手は勝ち星が伸び悩んだ2016年頃から一度調教師転身を考えていた。しかし翌2017年、当時生え抜きの3歳二冠馬として飛ぶ鳥を落とす勢いだったフリビオン号(中西達也厩舎)が古馬重賞「第29回珊瑚冠賞」に出走することになり倉兼騎手が騎乗。最後の直線で後続を突き放す圧勝劇に感動を覚え、「もう一度この感動を味わってから引退しても遅くない」と思い直したという。

その後出会ったスペルマロンへの想いとともに、調教師としてもスペルマロンみたいな馬に出会えて、違った場所から感動を得ることができればと語った。

終了後の記念写真。倉兼騎手の勝負服で堂々前列中寄りに陣取ってひときわ目立つ石本純也騎手に笑顔がこぼれた。

倉兼騎手の現役最終騎乗は「一発逆転ファイナルレース」(C3-11記者選抜・1400m)。騎乗するのは初騎乗となるスリーズロワイヤル(別府真司厩舎)。

弟分?上田騎手から声をかけられる
騎乗
すっきりしたような顔つきにも

メンバーの中には明らかに先行したいと思しき馬がいる一方、スリーズロワイヤルは差しタイプと展開は向きそう。加えて引退レースという要素も加味されたか、単勝2番人気の支持を集めた。

やはり岡村卓弥騎手騎乗のカフェティアラ(雑賀正光厩舎)と阿部基嗣騎手が乗るスズカノアイル(西山裕貴厩舎)の2頭が逃げる形で引っ張り、スリーズロワイヤルは最後方で待機。

先行勢が苦しくなった4コーナー前で上田将司騎手騎乗のビーイング(國澤輝幸厩舎)が捲って先頭に立つも、直線で大外を追い込んだ畑中信司騎手が乗るクラールス(平 和人厩舎)が捉えて差し切り勝ち。スリーズロワイヤルも先団に迫り一時は3番手に浮上も、

ゴール前で山崎雅由騎手のハンメルフェスト(雑賀正光厩舎)に捉えられ、現役最後、地方競馬14902戦目のレースは4着での入線で締めくくられた。

引退式の最後、中継向け生アイキャッチでポーズを取る倉兼騎手

倉兼育康騎手、28年間お疲れさまでした。

※一部の画像は許可を得た場所から撮影

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