高知競馬場のラップタイム表示 | 高知けいばメモ
(2023年度 馬場状態 3/27まで) [良]13 [稍重]23 [重]29 [不良→重]1 [重→不良]4 [不良]39

高知競馬場のラップタイム表示

(初回投稿)2022.8.31
(更新)2400mでの表示を追加、一部追記

競馬においてレースの展開を記録する要素の一つが、ハロン棒(200m)間を通過するのに要したラップタイム。高知けいばでは2022年8月27日の開催から、新たに導入した「高精度測位システム」を用いて計測したラップタイムや区間ごとの上位通過馬表示を一部の中継放送へ表示する取り組みを開始しました。

ラップタイムは単に1レースだけの数値を見るだけでも「初めがゆっくりで後半にペースが上がった」といった経過を確認することができますが、データを蓄積して標準的なラップを掴めるようになれば、そのレースがハイペースだったのか、スローペースだったのか、また時計が出る馬場だったのか否かといった分析もできるようになります。

中央競馬では、JRAが公式記録としてレース全体のラップタイムを発表しており、さらに競馬メディア等からも独自に公式記録よりも細かいデータが発表され、それを予想のファクターとして活用する層もいます。

一方、地方競馬では各主催者ごとに対応が分かれており、2022年8月末現在、平地地方競馬の公式発表でレース全体のラップタイムを出しているのは南関東地区4場のみで、他は後半に要した走破時計「上り4ハロン」(兵庫2場は未公表)、「上り3ハロン」と各馬の「推定上がり3ハロン」のみとなっていました。

それまで公式記録では全体と各馬の「推定上り3ハロン」のみの発表だった高知けいばが、一気に飛躍した背景の考察と「高精度測位システム」によってどのような情報が計測され、表示が行われているのかをみてみます。

導入の背景

ラップタイム等の詳細な競走データは、元々南関東地区以外の地方競馬では公式記録の収集や公表が進んでおらず、高知けいばに関してもNARの「地方競馬情報サイト」での公式記録発表は他場と同時か遅れ気味という状況だったようで、高知けいばでの発表開始時期は以下のようになっていました。

コーナー通過順位発表開始:2005年5月1日
レース全体の上がり3F発表開始:2009年9月13日
各馬の上り3F発表開始:*2010年4月3日
*既に発表していた北海道、南関東、兵庫を除く全平地主催者が2010年4月から一斉に発表開始

一方、高知けいばの実況を担当する橋口浩二アナウンサーは自らストップウォッチを使ってラップタイムを計測し、そのタイムを実況中に即座に伝えるスタイルで知られています。確認できる中では2000年3月21日の「第3回黒船賞(GIII)」で既に最初の2ハロンと上がり3ハロンのタイムを実況の中で伝えています。

ゼロから競馬実況アナウンサーとなった橋口アナウンサーが競馬への見聞を深めていく中、海外のダート競馬においてはラップタイムが重要視されていることを認識し、また、リアルタイムにラップタイムを表示するアメリカの競馬中継にも影響を受け、これを実況に取り入れることを考えたそうです。一方で、機械計測を導入できない当時の高知けいばの状況を踏まえた結果、できる範囲で自分で測るようになったとインタビュー等で語っています。

展開やペースはある程度雰囲気で察することもできますが、明確な数値で表されると、よりその説得力も高まります。コメントをやり取りしながら見ることのできるインターネットのレース中継では、発表されるタイムによってレースの展開やそのラップを刻んだ馬の強さに反応があるなど、20年以上リアルタイムでラップタイムがわかる実況放送に触れている高知けいばのファンにとって、ラップタイムがレースを楽しむ重要な一要素となっていることに疑いはありません。

高知けいば主催者サイドも、メディア取材に対し、システム導入の経緯としてレースラップの計測によって興趣を高められるとその重要性に着目していたようです。

一方で、橋口アナウンサー自身も「曲芸っぽい」と評していた「伝えながら測る」スタイルは素人目にも難易度が高く、ファンサービスとして定着しているラップタイムを踏まえた高知けいば観戦を今後も継続でき、さらに発展させられる方策として、このシステムが導入されたのではないかと考えられます。

高精度測位システムの導入

従来の競馬のレースラップ計測には、赤外線を用いたシステムが用いられていましたが、高知けいばが採用した「高精度測位システム」は赤外線ではなく無線電波により位置を測位するシステムです。

システム導入による区間タイム等表示の発表があったのは開始前日の2022年8月26日でした。

システムは高知県競馬組合とエヌ・ティ・ティ・ブロードバンドプラットフォーム株式会社(以下「NTTBP社」)の共同開発によるもので、

無線技術と小型・軽量デバイスによる高精度な測位技術を活用することにより、競走馬の区間タイム計測等を実現し、競馬中継の映像に付加情報がプラスされることで、競馬をより一層楽しんでいただけます。

NTTBP社リリース(2022.8.26)より

というコンセプトによるシステムのようです。

各種スポーツ競技で選手の位置取りを測位してファンに伝える仕組みは各種競技で既に普及しており、海外競馬でも採用されていますが、国内ではJRAが2022年8月20日に札幌競馬場の場内放送ではじめて試験公開した段階。広い屋外で速度があり、重量に厳しい制約があるなど、単なるGPS感覚ではないレベルのものが求められ、超える課題は多かったものと思われます。

なお、準備は前年から既に行われていたようで、2021年11月29日に発表された翌年1月25日開催の「第36回全日本新人王争覇戦競走」の実施細目に、

(4)測位計測用タグ
騎乗に際しては測位計測用器具(Quuppa タグ)を装備すること。タグ装備用の保護ベストは組合で貸与する。個人所有の保護ベストを使用する場合は、高知県競馬組合に事前申請すること。(テープで保護ベストに貼り付ける)

高知けいば公式サイト「第36回全日本新人王争覇戦競走 実施要領・細目」より(→こちら)

との記載があり、遅くともこの競走の時期には実際の競走で騎手が測位計測用器具を付けてレースを行っており、その後も実用化に向けたテストが進められていたものと推測されます。

※「Quuppa(クーパ)」とはフィンランドの企業Quuppa社が提供する高精度リアルタイム測位システムとのこと。

コース外の電柱に取り付けられている「ロケーター」

コースの外周に設置されている電柱や照明塔、パトロールカメラ塔等には、測位を行う円形の「ロケーター」が取り付けられており、これが騎手の保護ベストに装着されている測位タグと交信し、位置を取るようになっています。

見られる媒体は限られている

高知けいばのレース中継はインターネット、CS、地元ケーブルテレビなどで見ることができますが、記事掲載時点でシステムによる区間タイム等表示が見られるのは、

  • 高知競馬場本場の中継放送放映モニター、ビジョン
  • パルス高知、パルス宿毛、パルス藍住の放映モニター
  • YouTube高知けいば公式チャンネル配信の中継放送
    (「ヨルノヲケイバ」も含む)

(高知競馬実況放送「モーニング展望。」2022.8.27放送分より)

となっており、「地方競馬ライブ」、「ニコニコ生放送」ならびに各投票サイトのストリーミング中継・アーカイブ映像やCS放送「地方競馬ナイン」等には表示されていません。

また、表示が出るのは実際のレース中のみで、入線後以降に放映されるリプレイ映像には表示されていません。

後でレースラップを確認する場合はYouTube高知けいば公式チャンネルに残されている中継アーカイブで確認することが可能です。

どんな表示が出る

表示されるのは次の項目で、計測されるごとに表示されます。なお、高知けいば公式サイトによると、この数値は「システムにより算出された参考値」とされていますが、表示開始日より上り4Fが公式記録に追加され、上り3Fとともにシステム数値と一致しています。

  1. スタートから2ハロン(400m)までのレースタイム
  2. スタートから3ハロン(600m)までのレースタイム
  3. 50m単位の通過上位3頭の馬番号(点滅表示)
  4. スタートから1ハロン(200m)ごとのレースラップタイムと計測時点での通過上位3頭の馬番号
  5. ゴールまでの上り4ハロン(800m)タイム
  6. ゴールまでの上り3ハロン(600m)タイム

レース中

表示されるのは1~4。スタートから200mを過ぎた所で3と4の表示が始まります。

(2022.8.27 1Rより 以下同じ)
左が表示3(点滅表示)、右が表示4(5秒程度の表示)

3は50m単位で順次上位3頭の変動を点滅表示し続け、残り200m辺りで表示が消えます。一方、4は5秒程度表示すると表示が消え、次の200mを通過すると新たな計測結果が表示されます。

表示4が消えると表示3のみが左端で点滅しながら表示を続ける
2ハロン通過で右上に1(5秒程度)

スタートから2ハロンを過ぎたところで1、3ハロンを過ぎたところで2がその都度5秒程度表示されます。なお、1400m以下のレースでは2は表示されません。

ゴール後

表示されるのは5と6で、勝ち馬の入線直後から20秒程度右上に表示されます。なお、5は800m戦では表示されません。

右上に表示5と表示6。ゴール前リプレイに移るまでの約20秒表示。

表示されない媒体向けには

現時点ではタイム表示が出ない媒体の方が多い状況ですが、橋口アナウンサーは引き続き手動計測で伝えていた時と同じタイミングのラップタイムをアナウンスしているため、見えない媒体でも従来から提供されていた情報が欠落することはありません。

なお、取材記事によると橋口アナウンサーは現在も手動計測を続けているとのことですが、実況放送ではシステムで算出されたタイムを確認してアナウンスされています。一方で、システム不具合が発生してデータが表示されないケースがあり、その際は手動計測値をアナウンスしたことがあります。

ハロンタイムの注意点

システム計測のタイムは参考値とされています。また、1ハロンごとのラップタイムと複数ハロン間のラップタイムは別々に算出されているようで、1ハロンごとのタイムを合算しても、複数ハロン間のラップタイムと一致しないことがあります。また下表のとおり、道中の1区間と最後の1ハロン(1300m、1900mは1ハロン半)はラップタイムが非表示となります。このため、全ハロン間のラップタイムは中継テロップを集約しただけでは完成せず、また記事作成時点では公式記録としても発表されていません。

距離によっては複数ハロン間のタイムを使ったり、上がりハロンタイムや勝ち時計から逆算することで非表示区間のラップを推定することはできますが、勝ち時計は自動計測に含まれていないため、そのまま当てはめていいのかは疑問が残ります。

距離別ラップ表示区間
区間/距離 800m 1300m 1400m 1600m 1800m 1900m 2400m
0-200 ×
200-400
400-600 × ×
600-800 × × × × ×
800-1000
1000-1200 ×
1200-1400 × ×
1400-1600 ×
1600-1800 × ×
1800-2000 ×
2000-2200
2200-2400 ×
序盤2F ×
序盤3F × × ×
上がり4F ×
上がり3F
○=表示される ×=表示されない 

また、これまで手動計測でラップタイムを伝えていた橋口浩二アナウンサーからは、スタートからのハロンタイムについては計測開始タイミングが異なることになったため、従来の手動計測より0.5秒程度遅いタイムになるとの補足コメントがなされています。

今後の展開は

NTTBP社のリリース(上項掲載)によると、今後高知競馬場本場の公式公衆wi-fiサービスから接続できる専用ページに、競走当日のみ出走馬ごとの区間ハロンタイムを確認できるサービスを実施することが明らかになっています。

また、本システムを取材した記事によると、データが膨大であることもあり、まずはメディアサイドに詳細なデータが供給される方向となっており、当面はメディアで咀嚼してラップタイムを活用してもらうとのことです。

記事掲載時点では導入から間もなく、また部分的な自動計測による参考値という前提もあってか抑え気味の提供という感がありますが、全国に散らばっているであろうデータを駆使して楽しむ競馬ファンにとってはかなり目を引くサービスであり、精度が向上した際には中継放映の配信媒体の増加や、また現状は本場での当日閲覧に留まるというデータ公表も多様化を目指すなど、購買層の大半を占める場外ファン向けへの提供拡大も期待したいところです。

メディアによる取材記事(参考文献)

  • netkeiba.com「ちょっと馬ニアックな世界」
    レースを見ながらラップが分かる! 高知が初導入した画期的システム
  • グリーンチャンネル「アタック!地方競馬」(第182回)
    「ATTACK! SPECIALー高知競馬が新導入!高精度測位システム」(9:24~)

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