高知けいばの重賞競走の流れを追っていく上での大きなキーワードが、『平成9(1997)年に行われた重賞競走の体系化』。その後、経営難等や馬資源の減少等により一時休止、廃止となった競走や、新たな取り組みにより新設された競走もありますが、四半世紀近く前に行われたこの取り組みにより整理された重賞競走の枠組みが、現在に至るまで基本的に維持されています。では、それ以前の重賞競走はどういう形だったのか。比較的競走条件等が明確に記載されているNAR公式サイトの出馬表及び競走成績は1998年からしかないため、「JBISサーチ(公益社団法人日本軽種馬協会・https://www.jbis.or.jp/)」掲載の出馬表・競走成績に、NAR公式サイトデータベースに残されている、当該重賞に出走していた競走馬の出走成績欄を組み合わせた形で体系化の「前(1996年度(1996年4月~1997年3月))」と「後(1997年度(1997年4月~1998年3月))」を比較してみました。
注・当時は馬齢表記が満年齢に移行する前(数え年表記)のため、現在の表記より1歳少なくなっています。
体系化前(1996年度)
- 4月21日開設記念・第12回二十四万石賞
サラ系A1
1900m
1着賞金170万円 - 4月28日開設記念・第12回南国桜花賞
アラ系A1
2100m
1着賞金130万円 - 5月3日黒潮ダービー・第24回やいろ鳥賞
サラ系4才1
1600m
1着賞金170万円 - 5月5日南国ダービー・第24回長尾鶏賞
アラ系4才1
1600m
1着賞金130万円 - 6月2日第18回やまもも宝冠賞
アラ系A1
1900m
1着賞金130万円 - 8月18日農林水産大臣賞典 第19回建依別賞
サラ系オープン 1400m
1着賞金200万円 - 9月22日第8回RKC杯
サラ系4才オープン
1800m
1着賞金170万円 - 10月20日第8回KUTV杯
アラ系4才オープン
1800m
1着賞金130万円 - 11月3日第8回珊瑚冠賞
サラ系A1
2100m
1着賞金170万円 - 11月4日農林水産大臣賞典 第15回南国菊花賞
アラ系オープン
1400m
1着賞金150万円 - 12月8日第29回アラブ3歳優駿・銀の鞍賞
アラ系3才1
1600m
1着賞金110万円 - 12月29日第24回サラ3歳優駿・金の鞍賞
サラ系3才1
1600m
1着賞金140万円 - 12月31日第24回南国王冠・高知市長賞
アラ系オープン
2400m
1着賞金600万円 - 1月3日第27回新春杯・高知県知事賞
サラ系オープン
2400m
1着賞金800万円 - 2月16日第18回南国梅花賞
アラ系A2
1900m
1着賞金110万円 - 3月2日第24回桂浜月桂冠賞
サラ系A2
1900m
1着賞金140万円
(回数とサブタイトルが資料によって表記順が異なるため、現在の表記に合わせています)
1996年度の重賞競走はサラ系、アラ系とも8競走ずつの計16競走と現在のサラ系単独開催よりも少ない施行数でした。基本的にサラ系とアラ系で同じような条件をセットにして組んでいたのが当時の特徴です。開催日数は年度108日間と現在とあまり変わりませんが、当時は開催回に割り当てられる6日分を集中して開催しており、2週連続3日開催や6日間連続開催も組まれる一方、1か月近く開催がないこともザラだったようで、サラとアラの重賞が同一回に近接して開催される反面、夏ごろのように2か月全く重賞がない時期もありました。古馬重賞に関してはサラ系・アラ系とも概ね2か月に1戦程度という形だったようです。
現在使われていない2コーナーポケットの2100m戦が健在、1800m戦が一般戦でも組まれている時代であり、重賞の大半は1800m以上、一方古馬の短距離重賞は1400m戦のサラ系「建依別賞」とアラ系「南国菊花賞」だけと大きく異なっていました。かつての日本競馬は「長距離をこなす馬こそ強い馬」という風潮があったという話もよく聞くのでそれに倣っていたのかなと思われます。
現2歳の3歳重賞がサラ系の「金の鞍賞」、アラ系の「銀の鞍賞」だけというのは2016年の「黒潮ジュニアチャンピオンシップ」の新設まで変わりませんでしたが、現3歳の4歳重賞は2戦だけで5月(少し前の時期はもっと時期が流動的でした)にサラ系の「黒潮ダービー・やいろ鳥賞」、アラ系の「南国ダービー・長尾鶏賞」がマイル戦、その後秋に地元放送局の名を冠したサラ系の「RKC杯」、アラ系の「KUTV杯」が1800m戦で行われる形でした。
賞金に関しては1995~1996年度はそれ以前より少し減額されていた時期だったようですが、概ね1着100万円台で古馬と4歳は同水準、3歳が少し低くなっていました。ただし、農林水産大臣賞典の「建依別賞」「南国菊花賞」だけは200万円と少し高くなっており、そして、年末年始の高知県知事賞・高知市長賞だけはグランプリレースとして突出した賞金になっている構図なのはこの当時も同様でした。また、サラ系よりアラ系の方が賞金を下げているというのも基本だったようです。
出走馬に関しては当時はクラス編成が相対評価制(登録馬の賞金順に上位から一定数ごとにA、B…)だったそうなので、現在と方式が異なっていますが、「1組戦」としている競走と「オープン」としている競走に分かれており、登録馬の賞金上位が重賞出走と登録を募った競走という2種に分かれていたのかなと推測されます。なお、年度末のA級2組条件重賞となっていたサラの「桂浜月桂冠賞」とアラの「南国梅花賞」については、同じ開催回の1組には特別競走が別途組まれていました。
体系化後(1997年度)
- 4月5日[重]開設記念・第13回南国桜花賞
アラ系オープン
2100m
1着賞金240万円 - 4月6日[重]開設記念・第13回二十四万石賞
サラ系オープン
2100m
1着賞金300万円 - 4月7日-準-弥生特別
アラ系4才
1300m
1着賞金65万円 - 4月8日-準-若葉特別
サラ系4才
1300m
1着賞金80万円 - 4月27日[重]第1回マンペイ記念
アラ系4才
1400m
1着賞金200万円
アラ系4歳三冠競走第1戦 - 4月29日[重]第1回黒潮皐月賞
サラ系4才
1400m
1着賞金250万円
サラ系4歳三冠競走第1戦 - 5月4日[重]第1回トレノ賞
サラ系オープン
1400m
1着賞金250万円 - 5月6日-準-アラブ4歳特別
アラ系4才
1600m
1着賞金65万円 - 5月11日-準-青葉特別
サラ系4才
1600m
1着賞金80万円 - 5月13日-準-長浜特別
サラ系オープン
1600m
1着賞金150万円 - 5月25日[重]第19回やまもも宝冠賞
アラ系牝馬オープン
1900m
1着賞金160万円 - 6月1日[重]第25回桂浜月桂冠賞
サラ系オープン
1900m
1着賞金250万円 - 6月3日[重]第25回南国優駿(アラブダービー)
アラ系4才
1900m
1着賞金240万円
アラ系4歳三冠競走第2戦 - 6月8日[重]第25回高知優駿(黒潮ダービー)
サラ系4才
1900m
1着賞金300万円
サラ系4歳三冠競走第2戦 - 7月3日[重]第9回KUTV杯
アラ系4才
1600m
1着賞金160万円 - 7月12日-準-横浪特別
サラ系オープン
1300m
1着賞金150万円 - 7月13日[重]第9回RKC杯
サラ系オープン
1600m
1着賞金200万円 - 8月17日[重]農林水産大臣賞典 第20回建依別賞
サラ系オープン
1400m
1着賞金300万円 - 9月6日-準-アラブ4歳特別
アラ系4才
1600m
1着賞金65万円 - 9月9日-準-足摺特別
サラ系オープン
1600m
1着賞金150万円 - 9月21日-準-だるま夕陽特別
サラ系オープン
1300m
1着賞金150万円 - 9月22日[重]第1回黒潮乙女賞
サラ系牝馬オープン
1900m
1着賞金200万円 - 10月5日[重]第1回荒鷲賞
アラ系4才オープン
1900m
1着賞金240万円
アラ系4歳三冠競走第3戦 - 10月10日-準-高知新聞杯
サラ系4才
1600m
1着賞金80万円 - 10月12日[重]第9回珊瑚冠賞
サラ系オープン
1900m
1着賞金300万円 - 11月2日[重]農林水産大臣賞典 第16回南国菊花賞
アラ系オープン
1400m
1着賞金240万円 - 11月9日[重]第1回黒潮スプリンターズカップ
サラ系オープン
1400m
1着賞金250万円 - 11月11日-準-山茶花特別
アラ系オープン
1900m
1着賞金100万円 - 11月16日[重]第1回黒潮菊花賞
サラ系4才オープン
1900m
1着賞金300万円
サラ系4歳三冠競走第3戦 - 12月13日[重]第30回銀の鞍賞
アラ系3才1
1400m
1着賞金160万円 - 12月14日[重]第25回金の鞍賞
サラ系3才1
1400m
1着賞金200万円 - 12月18日[重]第1回黒潮マイルチャンピオンシップ
サラ系オープン
1600m
1着賞金250万円 - 12月31日[重]第25回南国王冠・高知市長賞
アラ系オープン
2400m
1着賞金800万円 - 1月4日[重]第28回新春杯・高知県知事賞
サラ系5才以上オープン
2400m
1着賞金1,000万円 - 1月25日-準-うぐいす特別
アラ系5才以上オープン
1600m
1着賞金100万円 - 2月22日[重]第19回南国梅花賞
アラ系5才以上オープン
1900m
1着賞金200万円 - 2月26日-準-龍河洞特別
サラ系5才以上オープン
1900m
1着賞金150万円 - 3月14日-準-四万十川特別
サラ系5才以上オープン
1300m
1着賞金150万円 - 3月24日-準-土佐みずき特別
アラ系5才以上オープン
1900m
1着賞金100万円 - 3月24日[重]第1回黒船賞(GIII)
サラ系5才以上オープン[指定交流]
1400m
1着賞金3,000万円 - 3月29日-準-若葉特別
サラ系4才
1300m
1着賞金80万円 - 3月30日-準-弥生特別
アラ系4才
1300m
1着賞金65万円
1997年度はご覧の通り重賞以外にも主要な競走が大幅に増えており、サラ系重賞15競走、アラ系重賞10競走のほか、1996年度には確認できなかった準重賞競走が新設されたようで、サラ系10競走、アラ系7競走が組まれました。この時にサラ系とアラ系の競走数の均衡が崩れており、サラ系へ比重が移っていることがうかがえます。なお、1997年度に関してはNARの成績表の表記方法が前年と変わっており、前年にあった1組戦をそのまま重賞としたものなのか、それともオープン競走なのかが判別できないものもあるため一部表現をあいまいにしています。
「体系化」という形で改編されたため、廃止された重賞はないものの、既存重賞の中には距離や条件の変更、名称が改められたものがあります。また、中央指定交流重賞「黒船賞」の新設もこの年であることから、「建依別賞」しかなかったサラ系の短距離系重賞が複数新設。経営難時代にいずれも休止期間がある為、現在の回次はバラバラになったものの、現在も続く「黒潮スプリンターズカップ」「トレノ賞」「黒潮マイルチャンピオンシップ」はこの体系化の際に新設された重賞です。
- 中央競馬指定交流競走「黒船賞(GIII)」(1400m)の新設
- 3歳三冠路線の新設
サラ系「黒潮皐月賞」→「高知優駿(黒潮ダービー)」→「黒潮菊花賞」
※「高知優駿」は「黒潮ダービー・やいろ鳥賞」を引き継ぎ距離延長(1600m→1900m)、他2競走は新設。
アラ系「マンペイ記念」→「南国優駿(アラブダービー)」→「荒鷲賞」
※「南国優駿」は「南国ダービー・長尾鶏賞」を引き継ぎ距離延長(1600m→1900m)、他2競走は新設。
なお、既存の4歳重賞サラ系「RKC杯」、アラ系「KUTV杯」は距離短縮(1800m→1600m)の上、2冠目と3冠目の間で継続。 - 古馬マイル・短距離重賞の新設
春季「トレノ賞」(1400m)、秋季「黒潮スプリンターズカップ」(1400m)、年末前「黒潮マイルチャンピオンシップ」(1600m) - 牝馬限定重賞の新設
サラ系「黒潮乙女賞」(1900m)の新設
アラ系は既存の「やまもも宝冠賞」(1900m)を牝馬限定戦に改編(※当年度限り) - サラ系長距離重賞の距離整理
「二十四万石賞」1900m→2100m、「珊瑚冠賞」2100m→1900m
※「二十四万石賞」と同時期開催のアラ系「南国桜花賞」が2100mだったことに合わせた? - 条件重賞のオープン競走化
「桂浜月桂冠賞」サラ系A2→サラ系5才以上オープン
「南国梅花賞」アラ系A2→アラ系5才以上オープン - オープン、4歳限定準重賞の新設
- 賞金の全般的な増額実施
1「黒船賞(GIII→JpnIII)」については高知競馬史上最高額となる1着賞金3,000万円でスタート。2008年の開催中止を経て、2009年まではこの額が維持されていました。なお、現在のような地元馬の選考レースというのは当初は設けられていなかったようです。
2の三冠路線新設にあたっては従来2戦だけだった4歳重賞のうち既存の「RKC杯」「KUTV杯」は別枠としてダービーの前後に競走を新設する形を取っており、両重賞は1998年度で廃止されています。
3の新設短距離系重賞の新設により、長距離路線と同様に定期的に短距離系の重賞が実施される体制が整えられたのですが、経営難が顕在化した2000年度で3競走がまとめて一旦休止されてしまい、再開したのは「夜さ恋ナイター」前後の時期、この際に開催時期も移動しています。
4の牝馬重賞はサラ系は「黒潮乙女賞」を新設した一方、アラ系はオープン重賞だった「やまもも宝冠賞」を牝馬限定戦に改編してアラ系・サラ系共に設置したものの、「やまもも宝冠賞」は当年度のみで廃止されアラ系は牝馬限定戦がない時代が数年続きました。また、「黒潮乙女賞」も2001年度からは準重賞(2002年~2004年は「黒潮乙女特別」)に格下げされ(ただし、この際アラ系にも「南国乙女賞」(サラ系同様に2002~2004は「南国乙女特別」)として牝馬限定準重賞を新設している)、2005年度以降はしばらく牝馬限定戦なしとなっていました(2011年1月、当時は単発開催だった「ベラトリックス特別」で復活。)
ところで、調べてみて一番意外だったのが7の準重賞。現在の準重賞は発売スケジュールの兼ね合いもあって多少いびつな日程配置になっている部分がありますが、当時は考える必要がなかったため、概ね主要な重賞の1か月前後ほど前の開催に、重賞に近い距離かつ同じ馬齢対象で準重賞が実施されており、ローテーションが見えるような配置がされていたようです(この準重賞がトライアルだったのか、プレップレースだったのかは不明ですが、年によってはトライアルと表記されている年もあります)。また、初年度は黒船賞と同日にアラ系の準重賞がアンダーカードとして設けられたりしていました。
そして8の賞金増額。高知県知事賞は再び1,000万円、高知市長賞は800万円に戻ったほか、全般的に重賞の1着賞金が引き上げられています。また、サラ>アラは同じですが、この時は位置づけ的なものを勘案してか、重賞ごとにも賞金に差が付けられていました。
こうして形作られた新たな体系の元での重賞競走でしたが、そのわずか数年後には高知競馬の経営難が表面化し、赤字を出せない経営での存続が選択されたことで、賞金の急削減(前年度の半減や4分の3になったケースもあった)、一部重賞競走の休止、準重賞競走の一旦全廃などが立て続けに行われ、一時期は重賞が年度で10競走程度、「最下級1着9万円、高知県知事賞1着135万円、古馬重賞1着50万円、2・3歳重賞1着27万円」と窮状を端的に言い表すキーワードが生み出されるほどの厳冬期を迎えることとなったのですが、関係者のギリギリまでの努力と地元ファンや全国のネット購入者によって買い支えられて何年もかけて乗り越えた結果、徐々に休止重賞の再開や、新機軸の重賞の新設、準重賞の再設置が行われるなど再生が進んだことで、骨抜きになりかけた骨格が蘇り、現在はさらにそれに肉付けができるようにまでなっています。